タクシー業界では、長時間労働や厳しい労働条件が長年の課題となっています。
しかし近年、働き方改革の推進や技術革新により、徐々に改善の兆しが見えてきました。
本記事では、実際に行われている労働環境改善の取り組みと、その導入のポイントを紹介します。
タクシー業界の長時間労働について
一般的に、タクシー運転手の仕事には主に下記のようなマイナスイメージがあります。
- 長時間労働
- 不規則な勤務時間
- 収入の不安定さ(景気や天候に左右される)
- 身体的負担が大きい(長時間の運転で座り続ける)
- 交通事故のリスクが高い
- 難しい客への対応(酔客やクレーム対応など)
この中で、タクシー運転手の仕事に興味を持つ方が特に気がかりなのは、やはり長時間労働や不規則な勤務時間に関することではないでしょうか?
実際に、令和3年における厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」では、タクシー運転手の年間実労働時間は2,184時間と報告されており、これは全職種平均の1,968時間と比較して約200時間多くなっています。
また、中には労働基準法をあまり守らないで、乗務員さんに長時間労働を求めて過酷な売り上げを要求しがちなタクシー会社があるのも事実です。
参考記事 :良いタクシー会社と悪いタクシー会社の体験を現役タクシー運転手が語る
しかし、こうした悪い慣行に歯止めを打つべく、タクシー運転手の労働時間により厳しい基準を作る動きが出てきました。
2024年4月から開始された改善基準告示の主な内容
これはいわゆる運送業の2024年問題の一角にあるタクシー運転手の長時間労働・過重労働を改善し自動車運転者の健康確保等の観点から見直しを行ったものです。
この改正により、主に以下の点が変更されています:
1)1か月の拘束時間が日勤の場合に11時間短縮されました。
2)1日の拘束時間の上限が16時間から15時間に短縮され、14時間超は週3回までという目安が設定されました。
3)休息時間が大幅に延長され、努力義務ではありますが、より長い休息時間の確保が求められるようになりました。
2024年3月31日までと4月1日以降の違いを表にすると以下のようになります。
項目 | 2024年3月31日まで | 2024年4月1日以降 |
---|---|---|
1か月の拘束時間 | 【日勤】299時間以内【隔勤】262時間以内※ | 【日勤】288時間以内【隔勤】262時間以内※ |
1日の拘束時間 | 【日勤】13時間以内 (上限16時間) | 【日勤】13時間以内 (上限15時間、14時間超は週3回までが目安) |
2暦日の拘束時間 | 【日勤】21時間以内※ | 【隔勤】22時間以内、かつ、2回の隔日勤務を平均し1回あたり21時間以内 |
1日の休息時間 | 【日勤】継続8時間以上 | 【日勤】継続11時間与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない |
2暦日の休息時間 | 【日勤】継続20時間以上 | 【隔勤】継続24時間与えるよう努めることを基本とし、22時間を下回らない |
※ 地域的その他特別な事情がある場合、労使協定により270時間まで延長可能(年6回まで)
会社選びの次に重要なのは自分に合った勤務形態
タクシー会社を選ぶ時はそのタクシー会社が労働基準法を守り、労働時間、休憩時間、休日数、有給休暇など法令に従っているかが重要です。
入社してから後悔するよりも、面接の段階でその種の質問をしてみて、会社側が正しく答えるかどうか確認することをお勧めします。
次に重要なのは、自分の目的に合った勤務形態で採用してもらえるかどうか。
タクシー運転手になって稼ぎたいのなら選択順序は夜勤務→隔日勤務→昼勤務の順になります。
地域によって運収や収入には違いがありますが、福岡市の場合なら私のように朝から夕方までの昼勤務で4日勤務1日休みの勤務形態優先であれば毎月の手取り額は30万円前後ぐらいになるでしょう。
参考記事 : タクシー運転手の勤務形態について現役タクシー乗務員が解説
採用となり二種免許を取得した上で社内研修を受けてタクシー乗務スタートとなるわけですが、ここまで来ても実際の仕事をやりながらにおいて会社が本当に労働時間や休息や休日などを法令に従ってやってくれるかどうかは気になるものです。
私も今の会社に入社してからしばらくは多少気になりましたが、時が経つに連れて本当にいい会社に恵まれたとかんじています。
次に、私個人の体験をお話しします。
労働時間、休憩、休日、シフト変更、有給休暇など柔軟対応
私が運よくお世話になることになった現在のタクシー会社は福岡では老舗の会社です。
感じることは運転手さんの健康と安全を優先した経営姿勢です。
会社では、日勤の場合一日の労働時間は10時間半内外を目安にしています。また、2時間に一度10分以上の休憩を取ることを推奨しています。
1日の仕事を終えると自動日報に記録されるので、運転評価の一部としてSS→S→A→B→C→D→Eといった評価が会社側にも運転手側にも反省材料として明示されます。
公休出勤(いわゆる公出)は希望どおりですが、法令どおり二回連続は出来ません。公休出勤をした次の休日は休まなければならないのが原則です。
個人的な用事で仕事日のシフトを変えてほしい時は概ね運転手さんの希望を満たしてくれます。
また、給与明細には有給休暇の残日数が表示され、こちらも運転手さんの希望どおりに取ることが可能です。
ちなみに、極めて個人的なことですが、一昨日私の義母が逝去しました。会社に報告すると、忌引き休暇が2日あり、私の希望日に合わせていいとのこと。
また、昨日葬祭場には会社の社長の名前で弔電が届いていてありがたい思いをしました。
そして、本日数日ぶりに出社すると、事務員さんに会社から¥5,000の香典が出ると言われました。
多少の驚きとともに会社の姿勢に感銘を受けた次第です。
タクシー業界は概ね法令順守に傾いていると思いますが、この記事をお読みの方がタクシー運転手の仕事を真剣に考えておられるなら、是非タクシー会社を見定める目を持っていただきたいと思います。
まとめ
- タクシー運転手の長時間労働が従来から問題視されていたが、2024年4月から新しい改善基準告示が施行された。
- 新基準では、月間・日間の拘束時間の短縮や休息時間の延長など、労働条件の改善が図られている。
- タクシー会社選びの際は、労働基準法遵守や自分に合った勤務形態を重視することが重要。
- 筆者の経験から、良好な労働環境を提供する会社では、適切な労働時間管理、休憩・休日の確保、柔軟なシフト変更、有給休暇の取得しやすさなどが実現されている。
- タクシー業界全体が法令遵守に向かう傾向にあるが、就職を考える際は会社の労務管理方針をよく見極めることが大切。