こんにちは、現役ドライバー歴7年、70歳のヤヌスです。
どれだけ安全運転を心がけても、交通事故のリスクをゼロにすることはできません。万が一事故を起こしてしまった際、「責任は誰が取るのか」「給与はどうなるのか」という不安は、特に新人ドライバーにとって非常に大きいものです。
一般の自家用車とは異なり、タクシーは「会社」と「お客様」という第三者が必ず関わるため、事故後の処理は非常に複雑になります。
この記事では、私の実務経験に基づき、タクシー事故発生時の責任の所在(会社かドライバーか)、過失割合の現場判断、そして保険や示談交渉のリアルな流れを解説します。最悪の事態に備え、冷静に対処するための知識を身につけましょう。
この記事でわかること(事故後の対処と責任):
- ・事故の「一次的な責任」は誰に帰属するのか?
- ・ドライバーが費用負担を求められるリアルなケース
- ・事故直後の「絶対にしてはいけないこと」
- ・過失割合の現場判断と、保険会社・会社との交渉実態
1. 事故発生!「誰の責任」になるかの基本原則
タクシーは事業用車両であるため、事故の責任は基本的に「使用者責任」と「運行供用者責任」という二つの法律上の原則に基づき判断されます。
1-1. 一次的な責任は「会社(使用者)」に帰属する
原則として、ドライバーが業務中に起こした事故の損害賠償責任は、一次的に会社(タクシー事業者)が負います。
- 法的根拠: 会社の車両を使い、会社の指示(業務)で運行しているため、民法上の「使用者責任」と自動車損害賠償保障法上の「運行供用者責任」に基づき、会社が責任を負います。
- 実務上の対応: 事故処理、保険会社との連絡、示談交渉はすべて会社と保険会社が行います。ドライバーは現場の状況を正確に報告することに専念します。
1-2. ドライバーが「費用負担」を求められるケース
会社が一次的な責任を負いますが、会社からドライバーへ費用の一部が請求されることがあります。これを「求償権の行使」といいます。
- 故意または重大な過失: 飲酒運転、著しい速度超過、信号無視など、ドライバーの「重大な過失」が原因である場合、損害額の一部または全部を求償される可能性があります。
- 軽微な事故でも: 会社の就業規則に基づき、免責金額(保険で賄えない自己負担金)の一部をドライバーの給与から天引きされるケースは、多くの会社で存在します。(この額は会社によって大きく異なります)
2. 事故直後の「プロの初動」と絶対NG行動
事故直後の初動対応が、その後の過失割合やドライバーの評価を左右します。
2-1. 事故直後の「絶対NG行動」
以下の行動は、絶対に避け、会社への報告を最優先にしてください。
- 現場で勝手に示談する: 警察の処理前、会社の指示前に「全額払います」「怪我はないですね?」などと安易に発言し、口約束で示談を成立させること。
- お客様を降ろして運行を続ける: 負傷者がいる可能性を無視し、営業を続けること。
- その場で過失割合を決める: 事故の責任は警察や保険会社が客観的に判断するものであり、その場での自己判断は後で不利になります。
2-2. プロの初動(報告・記録を最優先)
安全を確保した後、この手順で対応します。
- お客様と負傷者の安全確保: お客様に「大丈夫ですか」と声かけし、安全な場所へ誘導。
- 会社への即時連絡: 事故状況を「いつ、どこで、誰と、どうなったか」を正確に報告し、その後の指示を仰ぐ。
- 警察へ連絡: 軽微な物損事故でも必ず通報する。
- 現場の記録: スマートフォンなどで、事故車両の位置、損傷箇所、相手車両のナンバー、相手の連絡先などを詳細に記録する。
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3. 過失割合と保険・示談交渉のリアル
事故後の処理において、ドライバーが最も気にすべきは「過失割合」です。
3-1. 過失割合とドライバーの関わり
過失割合は、事故当事者間の示談交渉の中で、保険会社が過去の判例に基づいて決定します。
- ドライバーの役割: 現場での証拠(ドラレコ、写真、目撃情報)を全て会社に提出し、会社からのヒアリングに事実のみを正直に答えること。
- 過失が低いケース: 追突事故(前方不注意)、交差点での信号無視など、相手側の過失が明らかな場合は、ドライバーの責任は軽くなります。
3-2. お客様(乗客)への対応
乗客が事故で負傷した場合、その治療費は、ドライバー側の過失の有無にかかわらず、タクシー会社が加入している自賠責保険や任意保険で賄われるのが一般的です。
- 最優先事項:お客様の怪我の有無を確認し、病院の手配や会社への報告を最優先に行うこと。お客様を不安にさせない誠実な対応が、後の会社の示談交渉をスムーズにします。
| 状況 | YES(該当する) | NO(該当しない) |
|---|---|---|
| 業務中の事故か? | 会社が一次責任を負う | 自家用車扱いになる可能性あり |
| 故意・重大な過失があるか? | ドライバーに費用請求の可能性あり | 費用負担なし(保険・会社対応) |
| 就業規則に免責金額の定めがあるか? | 自己負担が発生する可能性あり | 全額会社負担の可能性あり |
| 事故直後に報告・記録を行ったか? | 過失割合交渉が有利に進む | 過失割合が不利になる可能性あり |
| お客様に誠実な対応をしたか? | 示談交渉がスムーズになる | クレーム・補償トラブルの可能性あり |
🚨 まとめ:事故は「処理能力」が試される
タクシー事故は、ドライバーの「処理能力」が試される緊急事態です。
事故の責任は一次的に会社が負うということを理解し、必要以上に怯える必要はありません。しかし、重大な過失は自己負担に繋がり得ます。
常に安全運転を心がけるとともに、万が一の際は「報告・記録・安全確保」を最優先に行い、会社と保険会社の指示に従うことが、ご自身の給与と将来を守る最善の策です。

