観光タクシー運転手の仕事は、ただお客様を目的地に送り届けるだけではありません。
観光地を巡りながら、地域の魅力を伝えるガイド役も担います。
この記事では、福岡市で現役のタクシー運転手をする私の個人的な体験を含めて、観光タクシー運転手の一日の流れや、仕事の魅力、必要なスキルについて詳しく紹介します。
一般的な観光タクシーの流れの解説
通常のタクシー運転手の仕事の流れ(流し営業や予約配車営業)とは異なり観光タクシーの営業は貸し切り営業となります。
料金もメーターを倒して走行距離に準じた料金を頂くのとは違い、貸し切り営業独自の料金が適用されます。
観光タクシーの料金は、地域や利用時間、車種によって異なりますが、以下は一部の例です:
地域 | 料金(4時間プラン) | 料金(8時間プラン) |
---|---|---|
東京 | 約20,000円〜25,000円 | 約40,000円〜50,000円 |
京都 | 約17,500円〜22,500円 | 約35,000円〜45,000円 |
大阪 | 約17,500円〜22,500円 | 約35,000円〜45,000円 |
奈良 | 約16,000円〜22,400円 | 約32,000円〜44,800円 |
福岡 | 約15,000円〜20,000円 | 約30,000円〜40,000円 |
北海道 | 約20,000円〜25,000円 | 約40,000円〜50,000円 |
沖縄 | 約17,500円〜22,500円 | 約35,000円〜45,000円 |
さて、ある意味タクシー運転手にとって借し切り観光は「おいしい仕事」です。
お客様を探したり何度も乗せたりする手間がかかりません。
以下で、そんな観光タクシーの一般的な一日の流れを解説します。
朝の準備とお客様のお迎え
観光タクシー運転手の一日は早朝から始まります。
まずは営業所に出社し、アルコールチェックや車両点検を行います。その後、当日の観光ルートを確認し、お客様を迎える準備を整えます。
お客様との待ち合わせ場所に向かい、笑顔でお迎えすることが大切です。お客様の希望や興味を聞きながら、最適な観光プランを提案します。
観光地巡りとガイド業務
お客様を乗せて観光地を巡る際、運転手は単なるドライバーではなく、ガイドとしての役割も果たします。
観光名所の歴史や文化、地元の逸話などを紹介しながら、お客様に楽しんでもらえるよう努めます。
観光タクシーならではの特別なスポットや、地元の人しか知らない穴場を案内することもあります。
昼食と休憩時間
観光タクシー運転手もお客様と同様に昼食を取ります。お客様が食事を楽しんでいる間に、運転手も短い休憩を取ります。
観光地近くのおすすめのレストランやカフェを紹介することも多く、そのためには事前にリサーチをしておくことが重要です。
お客様の満足度を高めるために、細やかな気配りが求められます。
夕方の観光とお見送り
午後も引き続き観光地を巡り、お客様に充実した時間を提供します。
夕方にはお客様を宿泊先や次の目的地までお送りし、一日の業務が終了します。
お客様が満足して帰路につく姿を見ることが、観光タクシー運転手にとってのやりがいです。
最後に営業所に戻り、車両の点検や日報の作成を行い、一日を締めくくります。
以上が一般的な観光タクシーの一日の仕事の流れです。
現役タクシー運転手のリアルな体験談
私は福岡市でタクシー運転手をしてますが、思い出に残る観光タクシーの体験談を二つご紹介します。
流し営業で乗られた外国人を観光ガイドした体験
昨今はインバウンド観光客と言われる外国人のお客様がタクシーを利用することが増えました。
ある日流し営業中に乗られた女性三人(後でフィリンピン人と判明)が英語で南蔵院に行きたいとのこと。
南蔵院:福岡県糟屋郡篠栗町にある南蔵院は高野山真言宗の別格本山で、日本三大新四国霊場のひとつに数えられる仏教寺院です。また、世界最大のブロンズ製の涅槃像で有名です。
私は英語を話すので目的地の確認をして現地に向かいました。
でも、考えたら、この三人の女性が帰りをどうするのか心配になり「How are you going to come back here? =帰りはどうやって帰るつもりですか?」と訊ねると「We will take a taxi.=タクシーを拾うつもり」との答え。
しかし、南蔵院あたりではまず流しのタクシーは走ってないし、彼女らは日本語ができないのでタクシー会社に配車依頼をすることもできません。
そこで、南蔵院の観光は1時間あれば大丈夫だろうから「I can wait for you there.=お待ちしますよ」とは言ったものの、初めて南蔵院を訪れる外国人が中で迷子になることも考えられます。
結局、彼女らに付いていくことにし、行く先々で見るお堂や仏像などを英語で解説してあげ、お参りの仕方なども英語で教えてあげました。
その時の様子が下の写真です。
帰り道の車内では夕食に関するアドバイスなどもしましたが、英語を話すタクシー運転手の私に出会えたことが幸運だったと何度もお礼を言われました。
往復のタクシー料金約¥15,000の他に¥3,000のチップを頂きました。
参考記事:タクシー運転手の接客英語の基礎を現役のタクシー乗務員が音声で解説
流しで乗られたお客様から翌日の1日観光を依頼された体験
ある日街中から博多駅東のホテルまで送ったお客様でしたが、姪子さんの結婚式に青森県八戸市から福岡までお越しになったんだとか。
それで、もう二度と福岡を訪れることはないだろうから「運転手さん、明日一日観光お願いできますか?」とのこと。
会社にも事情を説明して8時間観光を¥20,000でお受けし、翌日朝10時にお迎えに上がりました。
また、お聞きすると、歴史的な場所に連れて行ってほしいとのことでした。
選んだ場所を訪れた順序どおりに述べると、
1)日本一の釣鐘(梵鐘)のある観世音寺:7世紀末にできたとされる梵鐘を眺めたあとに平安末期から鎌倉期に作られた仏像が多数展示されている宝蔵を見学しました。
2)元号「令和」のゆかりの地とされる坂本八幡宮:万葉集にある和歌「初桜」が「令和」の由来となったされ、作者の大伴旅人の邸宅跡とされていることなどを説明しました。
3)学問の神様菅原道真公を祀る太宰府天満宮:初詣や受験シーズンには参拝客で賑わうこと、道真公を慕って京都から飛んできた飛梅の話などをして、本殿裏の茶屋で名物梅が枝餅と抹茶を頂きました。
*ここでお昼を回っていたので福岡市内に戻りながらお昼ごはんに食べたいものをお聞きすると「運転手さんにお任せします」とのこと。で、ラーメンがいいかうどんがいいかお聞きするとうどんの方がいいとのこと。名店「ウエスト」のうどんにはとても満足されました。
4)山笠で有名な博多総鎮守櫛田神社:創建は西暦757年とされていますが、現在の本殿は江戸時代初期の建築で国の重要文化財に指定されていること、博多祇園山笠が奉納される神社でもあり市内で最も参拝客が多い神社であることなど説明しました。
5)福岡城跡の舞鶴公園:ここは広すぎてさすがに全部を回るわけにはいきませんでしたが、1601年黒田長政によって築城が始まったことや、長政の父で大河ドラマ「軍師官兵衛」で有名な黒田官兵衛が如水と改名して余生を送った如水庵跡などを説明しながら案内しました。
こうして約8時間に及んだ福岡の観光をしましたが、お客様はご希望どおりの歴史的な場所に行けたことにとても喜ばれました。また、こちらのお客様からも¥3,000のチップを頂きました。
お礼を述べてお別れしましたが、別れ際に青森弁なのか「運転手さんでいがった」(いがった=よかった)と笑顔で言われた時は仕事のやりがいをかんじたものです。
上の二つの個人的な経験のように、会社経由以外にも思わぬ形で観光タクシーの仕事が舞い込むことがあります。
そんな時は日ごろから観光地に関する知識を蓄えておくことがとても役に立ちます。
まとめ
一般的な観光タクシーの仕事は会社に依頼があった仕事となり、早朝のお迎えから夕方のお見送りまでとなります。
その間に昼食を挟んでお客様が希望される観光地を中心に巡ることになりますが、効率的なルートの選択や満足いただける食事処をご案内することも観光タクシー運転手の大事な仕事です。
また、流し営業中に観光タクシーに変化する場合もあり、日ごろから観光地の知識を蓄えておくこととても役立つものです。
さらに、昨今はインバウンドの外国人観光客も多くなってきたので、英語での基本的な接客にも慣れておくに越したことはありません。