こんにちは。70歳、現役タクシードライバー歴7年のヤヌスです。
冬の朝、「エンジンはかかるのに動かせない」「そもそも鍵の反応がない」──そんな経験や不安を感じたことはありませんか?
タクシーの現場では、冬場になると「事故」よりも先に「出庫できないトラブル」が急増します。しかもその多くは、走行中ではなく、実は駐車中や出庫前に起こっているのです。
この記事では、現役タクシードライバーの実務経験をもとに、冬に特に多い「車が動かなくなる4つの原因」を整理しました。「無理に動かさない判断」がなぜプロの現場で重要視されるのか、その理由を解説します。
- 冬の朝に遭遇しやすい「車が動かない」4大トラブルの正体
- バッテリーやスマートキーが「冬だけ」弱くなる物理的な理由
- プロが「無理に出庫しない」と決める現場の判断基準
- トラブルを未然に防ぎ、自分と車両を守るための実務的な考え方
冬に多い「車が動かなくなる」4大トラブル
① バッテリー上がり|冬の定番トラブル
気温が下がると、バッテリー内部の化学反応が鈍くなり、本来の性能を発揮できなくなります。「昨日の仕事終わりまでは元気だった」という過信が、冬の朝には通用しません。
特に、前日の夜にライトの消し忘れなどがなくても、朝の冷え込みだけで寿命を迎えるケースは非常に多いのです。
② スマートキー・鍵トラブル|反応しない意外な原因
意外と見落としがちなのがスマートキーの電池消耗です。寒さで電圧が下がると、ドアは開いても「エンジンの始動認証」が通らなくなることがあります。タクシーに転職したばかりの方もよく驚かれる、冬特有の盲点の一つです。
③ サイドブレーキ凍結|最新の電動式でも安心できない
雪道走行後にそのまま駐車すると、ブレーキ機構に付着した水分が凍りつき、翌朝解除不能に陥ります。無理に動かせばブレーキシステムの重大な破損を招く、非常に厄介なトラブルです。
④ 空気圧低下|走れるが「非常に危険な状態」
空気圧は気温が下がると自然に低下します。見た目には「少し潰れているかな?」程度でも、そのまま走行すれば燃費の悪化やバーストのリスクは格段に上がります。
目安として、気温が10℃下がると空気圧は約0.1〜0.2気圧低下すると言われています。
→ 詳しくはこちら:73万km走って痛感した空気圧管理の本質
現場で最優先される判断基準|「動かす」より「止める」
私たちプロの現場において、「何とか工夫して無理に出庫する」ことよりも、「今の状態で、大切なお客様を安全に目的地へお送りできるか」を真っ先に問いかけます。
無理に出庫して途中で立ち往生すれば、お客様に多大なご迷惑をかけるだけでなく、会社の信用を失い、最悪の場合は車両の致命的な故障を招きます。プロにとって「動かさない勇気」を持つことは、事故を防ぐのと同等以上に重要な仕事なのです。
冬の出庫前点検チェックリスト
冬の朝は「動かさない判断」も含めて点検が仕事です。出庫前に、次の項目を必ず確認しましょう。
| カテゴリ | 点検項目 | チェック内容 |
|---|---|---|
| バッテリー・電装系 | エンジン始動の様子 | セルの回りが重くないか、いつもより「弱い」と感じたら要注意。 |
| 電圧低下のサイン | ヘッドライトの明るさ、メーター類の点灯具合に違和感がないか確認。 | |
| スマートキー・鍵 | ドアロックの反応 | ロック/アンロックの反応が鈍くないか、離れた位置からも反応するか確認。 |
| キー電池の状態 | 電池交換から長期間経過していないか。予備キーも含めて点検。 | |
| ブレーキ | サイドブレーキの解除 | 解除時に違和感や引きずり感がないか。凍結の疑いがあれば無理に動かさない。 |
| 電動パーキングブレーキ | 警告灯の有無、作動音の異常、解除エラー表示がないか確認。 | |
| ペダルフィーリング | ブレーキペダルの踏みごたえに変化がないか、出庫時に必ず確認。 | |
| タイヤ・空気圧 | 空気圧 | 冬は自然に低下。指定空気圧に対して不足していないかゲージで確認。 |
| タイヤの状態 | 残溝、ひび割れ、偏摩耗、スタッドレスの摩耗具合を目視で点検。 | |
| 接地面の雪・氷 | タイヤ周りに凍結した雪塊がないか、発進前に必ず確認・除去。 | |
| 視界・ガラス | フロントガラス/ミラー | 霜・氷・雪を完全に除去。視界を妨げる曇りが残っていないか確認。 |
| ワイパー | ゴムの硬化・ひび割れ、凍り付きがないか。作動テストも実施。 | |
| ウォッシャー液 | 凍結防止タイプが入っているか、残量は十分かを確認。 | |
| 燃料・その他 | 燃料残量 | 渋滞・立ち往生を想定し、冬場は早めの給油(目安:半分以下にしない)。 |
| 緊急装備 | スクレーパー、手袋、タオル、ブースターケーブルなど、最低限の備えを確認。 |
※ すべてを完璧にこなす必要はありません。「いつもと違う」と感じたら出庫を見送る判断材料として活用してください。
まとめ|冬は「トラブルを起こさない運行」が最大の仕事
冬の朝のトラブルは、正しい知識と「事前の備え」があれば被害を最小限に抑えられます。
タクシードライバーの方も、これから転職を考えている方も、冬場はいつも以上に「車両の声」に耳を傾け、無理のない判断を心がけてみてください。
これはタクシーに限らず、一般ドライバーの方にとっても同じです。
