「ピロン、ピロン――」
運転中、突然スマホやカーナビから鳴り響く緊急地震速報。その音を聞いた瞬間、あなたの足はどう動くでしょうか。
ブレーキを踏みたくなる。ハンドルを強く握る。「どこに逃げればいい?」と頭が一瞬で真っ白になる。
私は70歳、現役タクシー運転手として福岡の街を7年間、73万km以上走ってきました。その中で何度も感じてきたのは、地震そのものより怖いのは「人間の反射行動」だということです。
警察庁や国交省の指針は正しい。しかし現場では、「知っている通りに体が動く」とは限りません。
この記事では、緊急地震速報を聞いた“最初の1秒”で起きる判断ミスや、プロが真っ先に捨てている行動、そしてタクシーという仕事ならではの現実的な対応を、きれいごと抜きでお伝えします。
- 急ブレーキが最大のNG行動である理由
- プロが真っ先に捨てる「停車場所探し」という思考
- 乗客をパニックにさせない声かけの実例
- 揺れが収まった直後に起きやすい致命的な油断
運転中の緊急地震速報が本当に怖い理由
緊急地震速報(EEW)の本当の怖さは、揺れる前に「音だけ」が来ることです。静かな車内にあの警告音が鳴り響くと、どれほどベテランのドライバーでも一瞬、心拍数が跳ね上がります。
事故は、地震の揺れそのものよりも、その音に驚いたドライバーが起こす「急操作」によって引き起こされます。市街地、高速道路、トンネル。場所によって恐怖の質は違いますが、共通して言えるのは「地震が来る前に、自ら事故のきっかけを作ってはいけない」ということです。
速報を聞いた瞬間、プロが真っ先に捨てる判断
速報が鳴ったとき、多くの人が無意識に「どこに停めようか?」と安全な場所を探し始めます。しかし、プロの視点で言えば、最初の数秒で「完璧な停車場所を探すこと」は一度捨ててください。
場所を探してキョロキョロしたり、急な車線変更をしたりする方が、よほど追突事故のリスクを高めます。
まずやるべきは、操作を増やすことではなく「操作を減らすこと」です。アクセルを緩め、エンジンブレーキで自然に減速し、周囲に「私はこれから普通ではない動きをします」と宣言するために、即座にハザードランプを点灯させる。これだけで十分です。
タクシー運転手が直面する「お客様」への対応
私たちタクシー運転手にとって、自分一人の安全だけでは済みません。背後にはお客様がいます。
ここで一番やってはいけないのは、根拠のない「大丈夫ですよ」という声かけです。不安な時に「大丈夫」と言われると、人は逆に疑心暗鬼になります。
「地震速報です。安全のために一度左に寄せて止まります。シートベルトはそのままで」
事実と、次の動作と、身を守るための指示だけを淡々と伝える。これがプロの「安心の提供」です。特に車内で立ち上がろうとするお客様や、パニックになりやすい状況では、この冷静なトーンが二次被害を防ぎます。
揺れが収まった直後が、実は一番危ない
「あぁ、大したことなくて良かった」
そう思って再発進する瞬間が、実は事故の多発地帯です。
地震直後は、信号機が消えていたり、歩行者が車道に飛び出してきたり、段差が生じていたりと、道路状況が一変しています。何より、周囲のドライバー全員の精神が動揺しています。
「もう大丈夫」という思い込みを捨て、普段の3倍の注意力を注ぐ。それが、現場を生き抜くプロの流儀です。
運転中に緊急地震速報が鳴ったときの行動フロー
- 慌てて急ブレーキを踏む
- 停車場所探しでキョロキョロする
- 急な車線変更や進路変更をする
- スマホやナビ画面を覗き込む
- アクセルを戻し、エンジンブレーキで減速する
- ハザードランプを点灯し、周囲に異常を知らせる
- 急なハンドル操作を避けて車線を維持する
- 安全が確認できたら、できる範囲で左側に寄せて停車を検討する
まとめ|緊急地震速報は「考える時間」を奪う
緊急地震速報が鳴ってから揺れるまでは、わずか数秒から数十秒です。その時間で考え、判断することは不可能です。
だからこそ、「速報=減速・ハザード・無理に動かない」という行動を、反射レベルまで体に染み込ませておく必要があります。
プロも一般ドライバーも、本質は同じです。命を守るために、まずは「焦って何かをしようとする自分」を制御することから始めましょう。

