「トラックからタクシーへ転職すれば、まだ稼げるらしい」
「2024年問題で、次はタクシーが受け皿になる」
そんな話を、最近よく耳にするようになりました。確かに、時間外労働の上限規制(2024年問題)をきっかけに、長距離・中距離のトラックドライバーの中から転職を検討する人が増えています。
しかし――現場を走り続けてきた立場から見ると、この流れには「静かな落とし穴」もあります。
私は70歳、タクシー運転手歴7年。これまで73万km以上、福岡の街を走ってきました。この記事では、単に「稼げる・稼げない」という数字の話ではありません。
トラックからタクシーへ来て「続く人」と、同じ条件でも「辞めていく人」。その違いを、ハンドルを通じた“神経の使い方”という視点で整理します。
- 2024年問題でトラックドライバーがタクシーを検討する「本当の理由」
- 「荷物」から「人命」へ。運ぶものが変わることで生じる精神的負荷の正体
- タクシー転職で成功する人に共通する「車の不調への感度」
- なぜ「運転が好き」なだけの人ほど、タクシーで後悔しやすいのか
- 現役70歳が教える、自分にタクシー適性があるかを確認する3つの質問
2024年問題で「トラック→タクシー転職」が増えている背景
長距離トラックで全国を駆け巡り、日本の物流を支えてきた方々が、今「収入の減少」と「拘束時間の変化」に直面しています。残業が制限され、これまでのような「走った分だけ稼ぐ」モデルが崩れつつある。
そこで浮上するのがタクシーへの転職です。「二種免許さえ取れば、これまでの運転スキルが活かせる」「タクシーならまだ歩合で稼げる」という期待。確かにそれは間違いではありませんが、「同じ運転職」という言葉で一括りにするには、あまりにも環境が違います。
トラックとタクシーは「同じ運転職」ではない
最大の壁は、運ぶものが「荷物」から「人間」に変わることです。
トラックであれば、万が一の荷崩れも、謝罪や弁済で解決できる場合があります。しかし、タクシーの車内で「お客様が転んで怪我をした」となれば、それは取り返しのつかない事態です。
また、タクシーは「自己決定の連続」です。いつ休憩し、どこを流し、どの道を選ぶか。トラックのように決められたルートを走るのではなく、常に自分で判断し、その結果(売上)をすべて自分で引き受ける。この「自由という名の自己責任」に耐えられるかどうかが、最初の分かれ道になります。
トラック運転者→タクシー転職の比較表
| 観点 | トラック運転者 | タクシードライバー |
|---|---|---|
| 運ぶもの | 荷物(破損は弁済・謝罪で済む場合もある) | 人命(車内事故は取り返しがつかないリスク) |
| 走行ルート | 基本は会社・荷主が指定したルート | 自分で道・エリア・休憩を判断する自己決定の連続 |
| 責任の質 | 荷物の管理・時間厳守・積み降ろしが中心 | お客様の安全・快適さ・クレーム対応まで含めて一任される |
| 稼ぎ方 | 走行距離・拘束時間に収入が連動しやすい | 判断力・接客・流し方・時間帯選びなどで売上が大きく変動 |
| 働き方の自由度 | 運行計画に沿って行動するのが基本 | 休憩の取り方・エリア選択など裁量が大きい反面、自己責任も大きい |
| ストレスの種類 | 渋滞・荷待ち・納品時間など「時間」に追われるストレス | 酔客・クレーム・売上の波など「対人」と「成績」によるストレス |
タクシー転職で「続く人」の特徴
私が現場で見てきた、トラックから転職して成功する人には、共通した「習慣」があります。
- 車の微細な違和感に気づける人: 「今日はブレーキの初期制動が少し甘いな」「エンジンの振動が昨日と違うな」といった変化を、日常点検で敏感に察知できる人です。こうした「感度」が高い人は、お客様への接客も丁寧で、結果として無事故・高収入を維持します。
- 「適切な距離感」を保てる人: タクシーは密室での接客ですが、過剰な愛想は必要ありません。むしろ、お客様との適度な距離感を保ち、安全という最高のサービスを提供することに集中できる人が長く続きます。
後悔しやすい人の共通点
逆に、以下のような理由だけで転職すると、数ヶ月でハンドルを置くことになりかねません。
- 「運転が好き」という感覚だけで選んだ人: タクシーは「運転」よりも「状況判断」と「忍耐」の仕事です。渋滞、酔客、鳴らない配車……。操作そのものよりも、思い通りにならない状況で精神をすり減らしてしまう人は、大きなストレスを抱えることになります。
- 平均月収という「数字」だけを信じた人: 地域や時間帯、そして個人のスキルによって、タクシーの収入には大きな幅があります。「誰でも45万稼げる」という言葉の裏にある努力を想像できないと、現実とのギャップに苦しみます。
現役70歳ドライバーからの結論|自分に問うべき3つの質問
転職を決める前に、一度静かに自分自身に問いかけてみてください。
- 「一人の時間」と「密室の接客」、どちらを重く感じるか?
- 自分の運転の「癖」を、お客様の快適さのために捨てられるか?
- 稼げなかった日を「運」ではなく「自分の判断ミス」として受け入れられるか?
タクシーは決して2024年問題からの「逃げ場」ではありません。しかし、「一国一城の主として、安全を商品に稼ぎたい」という強い意志を持つ人にとっては、年齢に関係なく、これほどやりがいのある仕事はありません。
タクシー運転手には「個人タクシー」という独立の道もある
タクシー運転手の働き方は、会社に雇われ続けることだけではありません。一定の条件を満たせば、「個人タクシー」として独立する道も存在します。
私自身、福岡の街を長く走る中で、会社勤めを経て個人タクシーになった先輩ドライバーを何人も見てきました。ただし、ここで強調しておきたいのは、「誰でもすぐに独立できる」「必ず収入が上がる」わけではないという現実です。
個人タクシーになるには、
- 無事故・無違反の期間
- 一定年数の乗務経験
- 健康状態や年齢などの条件
といった要件があり、まずは会社で地道に実績を積む必要があります。
それでも、
「将来は自分のペースで働きたい」
「年齢を重ねても、裁量を持って続けたい」と考える人にとって、長期的な選択肢が残されているという事実は、大きな安心材料になります。
今回の記事では詳しく踏み込みませんが、「転職して終わり」ではなく、「その先も選べる仕事」であることは、タクシーという仕事の見落とされがちな一面だと思います。
個人タクシーという独立の選択肢に関してはこちらの記事で詳しく述べてます。→ 【2025年版】個人タクシー開業を最速で理解できる完全ガイド|条件・資金・準備・独立後の流れを総まとめ
まとめ
2024年問題は、ドライバーにとって「選別の時代」の始まりでもあります。自分の神経が、荷物を守ることに向いているのか、人を守ることに向いているのか。その適性こそが、あなたの第2のキャリアの成否を分けるのです。
